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脊髄損傷のレベル別症状|残っている機能から訪問施術を設計する
この記事の要点(TL;DR)
- 脊髄損傷では損傷した高さ(レベル)より下の機能が影響を受けます。だから「どこまで残っているか」が出発点になります
- 頸髄・胸髄・腰髄で、残る機能と注意すべき合併症がはっきり違います
- 相談所が見るのは「麻痺そのもの」ではなく「麻痺のせいで二次的に固まった部分」です。ここは変え得る対象です
- レベルが高い方でも、呼吸の深さ・座位の安定・関節の可動域は設計の対象になります
ご注意(必読)
- 本記事はご本人・ご家族向けの情報提供を目的としています
- 記載のアプローチはすべて専門施術者が行う手技です。ご自身での再現はお控えください
- 脊髄損傷では自律神経の反応(血圧の急な変動など)や、感覚のない部位の皮膚障害・骨折に注意が必要です。必ず主治医にご相談のうえ、専門施術者にご依頼ください
脊髄損傷の「レベル」とは何を指すのか?
脊髄が損傷した高さのことです。脊髄は脳から背骨の中を通って下りており、そこから枝分かれした神経が各部位を担当しています。損傷した高さより下へは指令が届きにくくなるため、「どの高さで切れたか」で残る機能が決まります。
大きく分けると次のようになります。表記の「C」は頸髄(首)、「T」は胸髄(背中)、「L」は腰髄(腰)を指します。
| レベル | 影響を受ける範囲の目安 | 残りやすい機能 |
|---|---|---|
| C1〜C4(頸髄・上位) | 首から下の広い範囲。呼吸筋にも影響 | 首の動き、表情、会話(呼吸の支援が必要な場合あり) |
| C5〜C6(頸髄・中位) | 手指の細かい動き、体幹、下肢 | 肩を上げる・肘を曲げる動き、手首を反らす動き |
| C7〜C8(頸髄・下位) | 手指の一部、体幹、下肢 | 肘を伸ばす動き、車椅子の駆動・移乗が可能になることが多い |
| T1〜T6(胸髄・上位) | 体幹の下部、下肢。血圧調整にも影響 | 上肢は基本的に保たれる |
| T7〜T12(胸髄・下位) | 下肢、体幹の一部 | 腹筋・背筋の一部が使え、座位が安定しやすい |
| L1以下(腰髄・仙髄) | 下肢の一部、排尿・排便 | 股関節・膝の動きが残ることがあり、装具で歩行に至る場合も |
※上の表は一般的な目安です。損傷が完全か不完全か(機能が一部残っているか)によって実際の状態は大きく変わります。ご本人の正確なレベルと残存機能は、主治医の評価にもとづきます。
なぜ「残っている機能」から設計するのか?
失われた機能を数えても設計はできないからです。使える場所を起点にして、そこから動作を組み立てます。
たとえば C7 で肘を伸ばす動きが残っているなら、その動きを使ってプッシュアップ(お尻を持ち上げる動作)が成立し、移乗と除圧につながります。T7〜T12 で腹筋・背筋の一部が使えるなら、座位でのバランスが自分でとれる可能性があります。残存機能が1段違うと、生活の組み立てが変わります。
ただし、残っている機能が「あるのに使えていない」ことがあります。この差が、相談所が手を入れる場所です。
「あるのに使えていない」とは、どういう状態か?
麻痺そのものではなく、麻痺のせいで二次的に起きた変化が邪魔をしている状態です。3つあります。
①関節と組織が固まっている(拘縮)
動かない時間が続くと、組織が短いまま固まります。短くなるのは筋肉だけではありません。近年のスポーツ医科学・解剖学では、筋・神経・血管・内臓を包んで全身をつないでいる結合組織のネットワークをファシア(fascia)と呼びます。これが層と層の間で滑らなくなると、力が残っていても隣の組織を引き連れてしまって動きません。
「肩は動くはずなのに腕が上がらない」というとき、麻痺が進んだのではなく、肩甲骨まわりのファシアが滑らなくなっていることがあります。
②骨格の位置が崩れている
車椅子で長時間過ごすと、骨盤が後ろに倒れて背中が丸まった形で固まります。この位置では、残っている上肢の力も出せません。肩は、骨盤と胸郭の位置が決まってから初めて本来の可動域を出します。
③呼吸が浅くなっている
体幹の支えが働かないと肋骨の動きが小さくなり、横隔膜が本来の位置で働けなくなります。呼吸が浅くなると、痰が出しにくくなり、活動量そのものが落ちます。頸髄損傷では呼吸筋が直接影響を受けますが、それとは別に「二次的に浅くなった分」があります。ここは変え得ます。
相談所が連携する施術者はどう設計するのか?
骨格 → 腹圧 → 体幹・骨盤底筋 → 歩行、の4ステップです。レベルによって到達する段階は変わりますが、順番は共通です。
ステップ1:骨格ポジションの修正
まず体の土台である骨格を整えます。ベッド上・車椅子上で受動的な徒手アプローチによって、骨盤と胸郭の位置を整えます。この工程は本人の努力を必要としません。レベルが高い方でも進められます。
ステップ2:腹圧が入るポジションを整える
腹圧とは、おなかの内側から体を支える力です。骨格が整って初めて働きます。腹圧が入らない原因は、骨格の崩れ・呼吸の浅さ・骨盤底筋が働いていないことにあります。肋骨と横隔膜の動きを出す手技を行います。呼吸の深さは、脊髄損傷では特に生活の質に直結します。
ステップ3:体幹と骨盤底筋を機能させる
残っている範囲で体幹と骨盤底筋を働かせます。PNF(固有受容性神経筋促通法)——1940年代に Herman Kabat 医師が開発した、軽い抵抗をかけて神経の通り道を使わせる手法——を用います。不完全損傷では、わずかに残った経路に信号を通す作業がここに入ります。
ステップ4:座位・立位・歩行の安定へ
土台が整った後、段階を上げます。座位が安定するだけで、食事・整容・移乗が変わります。レベルによっては装具を使った立位・歩行が目標になります。
レベルごとに、特に注意することは何か?
| レベル | 優先して見るところ | 注意する合併症 |
|---|---|---|
| 頸髄(C1〜C8) | 呼吸の深さ、肩甲帯の位置、首肩の緊張 | 血圧の急な変動、体温調節の難しさ、痰の排出 |
| 胸髄(T1〜T12) | 座位の安定、骨盤の位置、上肢の使いすぎ | 肩の痛み(車椅子駆動による)、褥瘡 |
| 腰髄・仙髄(L1以下) | 股関節の可動域、足関節のやわらかさ | 排尿・排便の管理、感覚のない足の傷 |
共通して重要なのが、感覚のない部位への配慮です。痛みを感じない部位では、強すぎる刺激や長時間の圧迫を本人が申告できません。相談所が連携する施術者は、圧の強さを本人の申告に頼らず、組織の反応を手で確かめながら進めます。
また、麻痺側では骨がもろくなりやすく、力任せの伸展で骨折が起きることがあります。ご家族が関節を最終域まで動かす操作は行わないでください。
なぜ上肢の使いすぎに注意するのか?
関節には役割があり、その役割が交互に並んでいます。動くこと(Mobility)を担当する関節と支えること(Stability)を担当する関節が交互に配置されている——Mike Boyle、Gray Cook ら(Functional Movement Systems)がジョイント・バイ・ジョイント・コンセプトとして体系化した考え方です。肩関節は動く担当、肩甲帯は支える担当、胸椎は動く担当です。
車椅子の駆動と移乗を上肢だけで担い続けると、胸椎が丸まって固まり、肩甲帯の支えが抜けます。すると肩関節が支えのないまま動かされ、肩の痛みが出ます。脊髄損傷の方に肩の痛みが多いのは、この崩れが積み上がるためです。
相談所では、肩を直接ほぐすだけでなく、胸椎の動きを出して肩甲帯の支えを戻すところまでを行います。原因が置かれている場所を見ないと、肩の痛みは戻ります。
発症から年数が経っていても、変化はあるのか?
あります。相談所には、長年経過したケースでの改善実績があります。「固まっているから仕方ない」で終わらせません。
変わるのは麻痺のレベルではなく、その上に積み重なった二次的な部分です。関節の可動域、ファシアの滑り、骨格の位置、呼吸の深さ。ここが変わると、着替え・清拭・移乗といった毎日の動作にかかる負担が変わります。ご家族の介助量が変わるのも、この部分です。
よくあるご質問
Q. 家族が記事を読んで自分でやっても大丈夫ですか?
A. 専門施術者の判断なしの自己流アプローチは状態を悪化させる恐れがあります。特に感覚のない部位への強い刺激、関節を最終域まで動かす操作は、皮膚障害や骨折につながります。必ず主治医にご相談のうえ、対応できる専門施術者にご依頼ください。相談所では適切な施術者をご紹介します。
Q. 自分のレベルが正確に分かりません。それでも相談できますか?
A. できます。レベルの正式な評価は主治医の領域ですが、相談所では「いま何が動くか・どこに感覚があるか・何をするときに困るか」からお聞きします。診断名やレベルが手元に無くても大丈夫です。
Q. 完全損傷と言われました。それでも受ける意味はありますか?
A. あります。麻痺のレベルそのものは変わりませんが、関節の可動域・ファシアの滑り・骨格の位置・呼吸の深さは変え得る対象です。褥瘡の予防、肩の痛みの軽減、介助量の軽減も設計に含まれます。
Q. 痙縮(けいれんのような突っ張り)があります。施術で強くなりませんか?
A. 触れ方と順番によって変わります。痛み刺激や急な伸展は痙縮を強める方向に働くため、避けます。主動筋を働かせて反対側を緩める相反抑制を使い、緊張を上げずに緩める順番をとります。
Q. 訪問リハビリテーション(理学療法士の訪問)を受けています。併用できますか?
A. 併用されている方がいらっしゃいます。医療保険・介護保険の訪問リハビリテーションと、健康保険適用の訪問リハビリマッサージは制度上も内容も別のサービスです。主治医とリハビリ担当医にご相談のうえ進めてください。
Q. 健康保険で受けられますか。費用はどのくらいですか?
A. 健康保険適用の訪問リハビリマッサージとしてお受けいただけます。1回あたりの自己負担は数百円程度〜が目安で、対応エリア内であれば出張費・交通費はかかりません。適用には医師の同意書が必要で、取得手続きは相談所が代行サポートいたします。詳しくは訪問鍼灸は健康保険で受けられるのか|同意書・費用・対象になる症状をご覧ください。
ご相談ください
大阪市(東成区・城東区・鶴見区)・東大阪市・八尾市で、脊髄損傷後の訪問施術をお探しの方は、健康保険適用の訪問リハビリマッサージ相談所までご相談ください。いま動く範囲、感覚のある範囲、そして毎日の動作でいちばん困っていることをお聞かせいただければ、そこを起点に設計いたします。
監修・技術指導:鈴木 密正
鈴木 密正(鍼灸あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師)が、本記事のアプローチを開発・体系化しています。
PRI(Postural Restoration Institute)/DNS(Dynamic Neuromuscular Stabilization)/ファンクショナルトレーニング・PNF(固有受容性神経筋促通法)・YNSA(山元式新頭針療法)など、機能解剖学・神経筋療法・伝統医療の現代的アプローチを統合し、脳梗塞後の麻痺・廃用症候群・パーキンソン病等の運動機能改善において、骨格 → 腹圧 → 体幹・骨盤底筋 → 歩行の4ステッププロセスを開発・指導しています。
訪問リハビリマッサージ以外にも、東大阪市で治療院兼トレーニング・コンディショニングジムを運営しています(true-function.com)。
鈴木自身はご訪問できません
代表の鈴木は、既存のご利用者様への対応で予約が満杯のため、訪問リハビリマッサージの新規対応は停止しております。
「訪問リハビリマッサージ施術勉強会」で技術を継承した施術者がご訪問します
その代わり、鈴木が主催する「訪問リハビリマッサージ施術勉強会」で技術を継承した業務委託施術者をご紹介いたします。同じ4ステッププロセスを学び、現場での実践指導を受けた施術者のみが、同等のアプローチでご訪問いたします。
訪問リハビリマッサージ相談所/〒577-0056 大阪府東大阪市長堂1-8-28-1309/フリーダイヤル 0120-92-4976(9:00〜20:00・日曜・祝日定休)