多発性硬化症の歩行障害|足裏のセンサーと股関節重心で歩きを取り戻す

多発性硬化症で歩行が不安定になる原因

多発性硬化症(MS)では、神経伝達の障害によりバランス感覚や筋力のコントロールが難しくなり、歩行障害が生じます。足が思うように上がらない、ふらつく、長距離が歩けないといった症状は、外出の意欲を奪い、社会的な孤立にもつながりかねません。しかし、歩行障害の原因を正しく分析し、適切なアプローチを行うことで、歩行能力を改善・維持することは十分に可能です。

足裏の固有受容感覚を取り戻す

歩行の安定には、足裏が地面の情報を正確に感知するセンサー機能が不可欠です。多発性硬化症では神経の損傷により、このセンサー機能が低下しがちです。足裏からの情報が脳に正確に伝わらないと、体がどの位置にあるのかを把握できず、バランスを崩しやすくなります。

施術では、足裏への適切な圧刺激や触覚刺激を通じて固有受容感覚を賦活させます。足指のグリップ力を高める訓練や、足首周りの可動域を確保する手技と組み合わせることで、地面をしっかり捉えて歩ける感覚を取り戻していきます。

股関節重心への転換で歩行を安定させる

歩行が不安定になると、多くの方が膝を突っ張って歩くようになります。この膝重心の歩行パターンは、一見安定しているように見えますが、実際にはバランスを崩しやすく、転倒のリスクが高い歩き方です。

股関節に重心を移すことで、殿筋やハムストリングスといった大きな筋群が効果的に使えるようになり、一歩一歩が安定します。ジョイント・バイ・ジョイント・コンセプトに基づき、足首のモビリティ、膝のスタビリティ、股関節のモビリティという本来の役割分担を取り戻すことで、効率的で安全な歩行パターンを再構築していきます。

筋膜の癒着解除で動きの質を改善

多発性硬化症では痙縮(筋肉の過緊張)が起こりやすく、長期間にわたる痙縮は筋膜の癒着を引き起こします。癒着した筋膜は関節の動きを制限し、スムーズな歩行を妨げます。

アクティブリリーステクニックを用いて、下肢の筋膜癒着を丁寧に剥がしていきます。特にふくらはぎ、太ももの内側・外側、股関節周囲の筋膜をリリースすることで、関節可動域が広がり、歩幅が大きくなります。筋膜リリース後にPNF的な手法で正しい動きのパターンを入力することで、改善した可動域を実際の歩行に結びつけます。

腹圧と呼吸で体幹から歩行を支える

安定した歩行には、体幹の支持力が欠かせません。多発性硬化症で体幹筋力が低下すると、歩行時に体が左右に揺れやすくなります。Zone of Apposition(ZOA)を意識した呼吸訓練で横隔膜の機能を高め、腹圧を入れながら歩く感覚を身につけることで、体幹から安定した歩行が実現します。

腹圧を維持しながら動作する技術は、歩行だけでなく、立ち座りや階段の昇降など、日常のあらゆる動作に応用できます。この「腹圧を入れながら動く」という基本を身につけることが、転倒防止と活動量維持の両方に直結します。

自分の足で歩き続けるために

多発性硬化症は長期にわたる疾患ですが、適切なリハビリを継続することで、歩行能力を長く維持することが可能です。訪問施術では、ご自宅の環境で実際に歩行練習ができるため、生活に直結した改善が期待できます。廊下での歩行、玄関の段差の上り下り、トイレまでの移動など、日常的に必要な動作を繰り返し練習することで、確実な歩行能力の定着を目指します。